本プログラムは平成28年3月31日をもって終了いたしました

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インタビュー INTERVIEW / 基礎研究の成果を実用化のステージにのせる / 革新的がん医療シーズ育成領域 領域長 清木 元治 金沢大学 特任教授

本領域には5つの研究分野のチームがありますが、これらの研究分野は、どのような観点から選ばれたのでしょうか?

清木:体のどこかで、正常な細胞の機能を損なうような変化が起こると、それが引き金となって病気が発症します。がんの場合、細胞の変化の原因は細胞増殖に関わる遺伝子の変異ですが、原因となりうる遺伝子が多数存在し、体中のいろいろなタイプの細胞ががん化する可能性をもっています。さらに、後述のエピゲノム修飾、細胞を取り巻く環境や免疫反応なども細胞の状態に影響を与えます。つまり、がんは、他の病気と違って非常に多様なのです。

当然、がんの治療薬を開発する際のアプローチも複雑であり、どこをどのように攻めるかが重要になります。そこで、本領域では、独創的ながん研究の成果として、がん治療に応用しうる新しい分子標的を同定した研究者に集まっていただきました。開発研究を戦略的に進めるために、開発目標を共有できる課題を一つの研究分野としてまとめ、5つの研究分野でチームを組みました。独自性の高い開発シーズに立脚して、斬新ながん治療薬を開発することにより、難治性がんの克服につなげたいと考えています。

5つの研究分野それぞれの特色と、研究開発で期待される成果を教えて下さい。

清木:「がん幹細胞」研究分野では、がん幹細胞とか腫瘍起源細胞と呼ばれる細胞がもつ分子を標的として、薬の開発を進めます。この細胞は近年知られるようになったもので、治療抵抗性が高く、がんの再発や転移にも関わっていると考えられています。このため、薬の開発は、治療抵抗性のがんの克服、再発・転移の抑制につながると期待されます。

「がん微小環境」研究分野も、がんに対する比較的新しい理解に基づく研究分野です。がんというと、がん細胞だけをやっつければ治療できると考えがちですが、実は、がん細胞を取り巻く正常細胞が、がん細胞の増殖や浸潤・転移に手を貸していることが明らかになってきました。そこで、この研究分野では、がん細胞の周辺細胞がもつ分子を標的とした新しいタイプの治療薬開発を推進します。このような薬は、がん細胞を直接たたく薬と組み合わせて使うことにより、治療効果の増強、転移予防・再発阻止という効果が見込めます。

「がん染色体・分裂期チェックポイント」研究分野では、がん細胞が増えるときの細胞複製装置を標的としています。既存の薬にも、細胞複製装置に作用するものは多くありますが、正常細胞にも作用するため副作用が表れます。そこで、この研究分野では別の戦略をとっています。がん細胞には、細胞複製装置を守る機構に異常をもちながら、その異常を補う分子があるために、生き延びているものがたくさんあります。この分子を標的にするのです。これにより、副作用がより少なく、より高い効果を示す薬の開発が可能になると考えています。

「がんエピゲノム」研究分野では、遺伝子の使われ方を決めるエピゲノム修飾を標的として分子標的薬の開発を行います。また、エピゲノムの異常をがんのリスク診断や診断マーカーとして応用するための開発研究を行います。エピゲノム修飾は、がん細胞の変幻性や多様性を生み出す原因にもなっているため、この研究分野での先進的な知見に基づいた分子標的薬は、新たな機構で治療効果に寄与すると期待しています。

「がん関連遺伝子産物の転写後発現調節」研究分野では、がん関連遺伝子産物の質と量を制御している分子を標的にした薬の開発を目指しています。現在の分子標的薬開発は、細胞増殖シグナル伝達に関わる分子を中心として進められていますが、この研究分野では、これとは違うステップにかかわる様々な分子を標的としており、新しい作動原理の抗がん薬ができると考えています。

本領域での研究開発の進め方にはどんな特徴がありますか?

清木:研究で得られた候補治療薬(リード化合物)を確実に患者さんに届けるためには、成果を製薬企業に引き継いで臨床開発と製品化を進めてもらう必要があります。これまでのアカデミアでのがん研究の成果は、学問的にはインパクトが高くても、製薬企業が薬の開発に着手するには情報が不十分な状態でした。アカデミアでの基礎研究と企業での開発の間に、いわゆる「死の谷」があったわけです。本領域では、支援基盤の機能を使いながら、両者がきっちりと出会うまでのプロセスを進めます。これが大きな特徴です。

支援基盤では、通常の研究室ではもっていないような薬剤のスクリーニングシステムの提供、抗体作製支援、がん細胞パネルやマウスを使った分子標的のproof of concept (POC)取得支援などを行う一方、製薬企業が開発に乗り出す際の判断材料となるような研究成果創出に向けたガイド、市場で薬となることを見据えた知財戦略面からの支援も行っていきます。

本プログラムに加わったアカデミアの研究者が、自分の成果を医療へと還元するプロセスを経験し、必要な知識を得ること、そして、それらが若い研究者に引き継がれることを期待しています。その結果として、基礎研究から医療への還元までの全過程を視野に入れた研究展開のできる研究者が増え、がんの基礎研究から次世代の治療薬が次々に生まれるという自然な流れができあがれば本望です。

(2012年3月掲載)

本領域では、これまでにどんな成果があがっていますか?

清木:本領域では、メンバーの研究者が同定した分子標的(革新的がん医療シーズ)を、支援基盤の支援を受けつつ、育成してきました。シーズを企業に導出できる形にまで育成するには、「分子標的のPOC取得」→「アッセイ系の構築とHTS」→「ヒット化合物の取得」→「True-Hitの取得」→「リードへの展開」→「リード取得」というプロセスが必要です。現在、育成中のシーズは120にのぼり、このうち6割以上が「True-Hitの取得」段階まで進んでいます。これはかなりよい成績と言っていいと思いますし、実際、興味をもつ企業との間で導出や導出前の共同研究開始に向けた話し合いが始まっています。

「免疫機構をターゲットとした創薬」と「転写機能をターゲットとした創薬」という2つの研究分野が新たに加わりましたが、その理由はなんですか?

清木:どちらも、基礎研究によって新たなシーズが次々に生まれている研究分野だからです。

免疫機構に関しては、がん細胞が、「免疫チェックポイント」に関与する分子をうまく利用し、免疫系の働きを抑えて生き延びていることが知られるようになりました。最近、この分子を標的とした治療薬も開発されています。これに限らず、免疫機構とがんの関係に着目した研究が急速に進展しているため、新たな研究分野をつくりました。

転写機能については、多くのがん遺伝子やがん抑制遺伝子の産物が転写因子であることや、変異型転写因子が発がん要因となる場合があることなどから、がんとの関係が注目されてきました。しかし、転写因子を標的とする薬は正常な細胞にも影響を与えるため、つくるのが難しく、まだほとんど存在しません。しかし、創薬技術の進歩によって転写因子の機能を制御することも可能になりつつあります。転写因子を標的として制御できると創薬の可能性も格段に広がります。そこで、新たに研究分野をつくって、研究開発に取り組むことになったのです。

今後は、どのように研究開発を進めていくのですか?

清木:これまでは育成が着実に進んできましたが、5年という本プログラムの期間で「True-Hitの取得」から企業への導出にまで進めるには、後半のプロセスをかなり加速しなければなりません。また、新たに加わった研究分野の課題については、プロセスの最初から最後までをごく短い期間で達成する必要があります。このため、すでにあったHTS、POC取得、薬効評価の支援基盤に加え、DDSや分子イメージングの支援基盤を設置し、強力な支援を行う体制を整えました。

これにより、少しでも多くのシーズを育て、薬の候補として最終的には企業に渡すことを目指していきたいと思います。

(2015年3月掲載)

清木元治(せいき・もとはる)

金沢大学医薬保険研究域薬学系 特任教授
金沢大学薬学部卒業、大阪大学大学院薬学研究科修了、金沢大学大学院医学研究科修了。医学博士。(財)癌研究会癌研究所研究員、同主任研究員、金沢大学がん研究所教授、東京大学医科学研究所教授、高知大学特任教授を経て、2015年より現職。2007~2011年、東京大学医科学研究所所長。日本学術会議会員(第21、 22期会員)。がん組織を様々な細胞からなる「社会」ととらえ、細胞と周囲の環境のインターフェースとして働く膜型プロテアーゼに着目して、がん細胞の増殖、浸潤、転移の分子メカニズムを解析し、がん治療への応用を図っている。