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TOP > インタビュー > 革新的がん医療シーズ育成領域  分野長 大阪大学 坂口 志文

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インタビュー INTERVIEW / 日本発の免疫療法の実用化を目指す / 免疫機構をターゲットとした創薬 研究分野 分野長 坂口志文 大阪大学教授

本チームではどんな研究・開発に取り組んでいますか?

坂口 :がんの免疫療法の研究は、近年、大きな変貌を遂げつつあります。少し前までは、「がん抗原」に着目した研究が中心でした。がん細胞では遺伝子に変異があるので、普通の細胞にはない抗原がつくられる。だから、それを利用してがん細胞に対する免疫反応を増強しようと考えたのです。

しかし、20年ほど前から、がん細胞を攻撃するエフェクターT細胞の発現する抗原認識受容体(T細胞受容体)が認識する抗原についての研究が進み、がん抗原の多くはがんに特異的なものではなく、正常な自己抗原であることがわかってきました。がん細胞と正常細胞では、つくられる抗原の量や質(ペプチドの長さ)が違うだけだったり、胎生期にだけ正常な細胞でつくられる抗原が、大人になってからがん細胞でつくられたりするのです。こうした正常な自己抗原に対する免疫応答はそもそも起こしにくく、また、このような"自己もどき"のがん抗原に対する免疫を増強すると、自己免疫も含めていろいろな副作用も起こる可能性があります。

そこで、現在はおもに4つの方法が研究されており、それらを組み合わせることで、個々の治療法の効果を上げるとともに、副作用をなるべく抑えようという方向にがんの免疫療法は向かっています。抗原を利用する方法は長く研究されてきており、抗がん剤や放射線でがん細胞を殺し、そのときに放出される抗原を用いて免疫細胞を活性化する方法(図の①)と、抗原の一部を抗原提示細胞に取り込ませ、ワクチンとして投与する方法(図の②)に大別されます。一方、エフェクターT細胞に発現する分子を改変して、その力を強める方法(図の③)の研究もさかんに行われています。さらに最近、がん細胞が、免疫を抑えるためのしくみ(制御性T細胞や免疫チェックポイント)を利用して生き延びていることが明らかになり、このしくみを阻害する方法(図の④)の研究も急速に進んでいます。

私たちのチームでは、これらの治療法の研究を進めつつ、より効果的な免疫療法の確立を目指して、研究・開発に取り組んでいます。免疫療法の薬剤開発とその臨床研究は、おもにアメリカで進んできましたが、「日本発のアイデア」を重視し、本邦での研究・開発を発展させたいと考えています。

4種類の免疫療法

4種類の免疫療法

具体的な研究課題の概略を教えて下さい。

坂口 :山口大学の玉田耕治教授は、エフェクターT細胞を強力にする研究を行っています。T細胞受容体の代わりにキメラ型抗原受容体(CAR)を導入することで、T細胞が抗原を強く認識するようにする手法が20年ほど前にアメリカで開発されました。玉田教授は、CARに加えて、T細胞を遊走させる因子や免疫チェックポイントをブロックする分子を導入し、より強力なT細胞をつくろうとしています。

京都大学の金子新准教授は、進行肝細胞がんに特異的なグリピカン-3という抗原を認識するエフェクターT細胞を患者さんから取り出し、この細胞からiPS細胞を樹立して増殖させ、T細胞に分化させて治療に用いるためのさまざまな検討を行っています。iPS/アニマルモデル研究分野で課題が採択された京都大学の河本宏教授も、悪性黒色腫に特異的なMALT-1などいくつかの抗原を対象として、同様の手法を検討しています。

一方、iPS細胞から、T細胞ではなく抗原提示細胞をつくり、治療に使おうとしているのは、熊本大学の西村泰治教授です。iPS細胞からつくった抗原提示細胞にインターフェロンの遺伝子を導入することで、強い免疫反応を引き起こすことを狙っています。また、医薬基盤研究所の石井健先生は、微生物抗原の研究からヒントを得た合成核酸と多糖の複合体を、免疫賦活剤として用いる治療法を研究しています。がん局所にこの賦活剤を導入し、そこだけで免疫を活性化しようというわけです。

藤田保健衛生大学の黒澤良和教授は、がん細胞の表面に多く存在するCD73という分子に着目しました。この分子は、細胞外にあるATP(アデノシン三リン酸)を分解し、アデノシンをつくります。アデノシンには、エフェクターT細胞の活性を抑える効果があり、がん細胞が自身を守るのに役立っています。そこで、黒沢教授は、CD73 に対する抗体でアデノシンの産生を抑え、免疫を活性化することを目指しています。

最後は、私たちが研究している制御性T細胞に関する課題です。免疫が過剰に働かないようにするための機構として、免疫チェックポイントと呼ばれる分子がエフェクターT細胞の働きを抑えていると考えられるようになり、それらの分子を阻害する薬が一部のがんの治療に使われ始めています。私たちは、免疫チェックポイント分子(例えばCTLA-4分子)が制御性T細胞を介してエフェクターT細胞の活性を抑える可能性を示してきました。そこで、制御性T細胞に特異的に発現する分子に対する抗体の作製や、その働きを抑える低分子化合物の開発に取り組んでいます。

免疫チェックポイントの阻害など、免疫を活性化してがんを強力に駆逐しようとすれば、自己免疫による副作用も起こってしまいます。このような副作用を抑える方法も含めて、がん細胞に対する強い免疫反応をいかに惹起できるかについて研究・開発を進めていきます。

(2015年7月掲載)

坂口 志文(さかぐち・しもん)

大阪大学免疫学フロンティア研究センター 教授
京都大学医学部卒業。医学博士。ジョンズホプキンス大学客員研究員、スタンフォード大学客員研究員、スクリプス研究所免疫学部助教授、新技術事業団「さきがけ21研究」研究員、東京都老人総合研究所免疫病理部門部門長、京都大学再生医科学研究所教授、同研究所所長を経て2011年より現職。2013年大阪大学特別教授。自己免疫を抑制する特異なT細胞である「制御性T細胞」の発見で、ウィリアム・コーリー賞、武田医学賞、慶應医学賞、紫綬褒章、朝日賞、日本学士院賞、ガードナー国際賞など多数の賞を受賞。