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インタビュー INTERVIEW / ゲノム異常とがんの関係を明らかにし新たな医療につなげる / がん臨床シーズ育成領域 領域長 間野 博行 東京大学 教授

本領域には5つの研究分野のチームがありますが、これらの研究分野は、どのような観点から選ばれたのでしょうか?

間野:日本のがん研究では、これまで培養細胞や実験動物を用いて様々な解析が行われ、多くの成果をあげてきました。これを発展させてがんをより深く理解し、よりよい治療につなげていくには、やはり患者さんのサンプルを用いた解析が必要です。

日本には、大規模な臨床腫瘍ネットワークがいくつかあり、がんの新しい薬がつくられたときに、従来の薬と比べて効き方はどうか、副作用はどうかといった臨床研究を数百ないし数千人規模で行ってきた蓄積があります。そこで、本領域では、臨床腫瘍ネットワークと最先端のゲノム解析グループがタッグを組み、患者さんのサンプルのゲノム・エピゲノムを解析する体制をつくりました。こうした解析結果をもとにして、がんの診断や治療を大きく進歩させることを目指しています。

5つの研究分野のうち、「戦略的治療デザイン」、「難治がん」、「チロシンキナーゼ阻害剤」は、このコンセプトによるもので、臨床腫瘍ネットワークの代表者に分野長になっていただきました。これらとは違って、「マルチバイオマーカー」研究分野では新たながんのマーカーを探索し、「複合免疫療法」研究分野では免疫療法の確立を目指します。やはり分野長はそれぞれの分野の第一人者です。この2つの研究分野でも、小・中規模の研究で候補が見つかれば、他の分野の臨床腫瘍ネットワークで有用性を確認することができます。

5つの研究分野それぞれの研究開発の内容と、期待される成果を教えて下さい。

間野:「戦略的治療デザイン」、「難治がん」、「チロシンキナーゼ阻害剤」の3研究分野は、対象とするがんや狙う分子標的の種類が違うものの、どれも「なぜ、ある薬が効く患者さんと効かない患者さんがいるのか」といった臨床上の疑問点に直結したゲノムの異常を明らかにすることを目指しています。

研究開発の進め方も共通しており、例えば、ある薬が効いた人と効かなかった人の全エキソン(30億塩基からなる人のゲノムのうちタンパク質をコードする遺伝子のすべて。ゲノム全体の1~1.5%にあたる)を読み取り、比較します。これにより、その薬が効かない理由をゲノムレベルで明らかにすることができ、患者さんに合わせた治療法をとることが可能になります。再発の有無をゲノムレベルで明らかにすることや、新しい分子標的を見いだすこともできると期待しています。特に、チロシンキナーゼ(TK)は細胞増殖のシグナル伝達にかかわる酵素群で、がん治療薬の最大の分子標的となっています。数多くのTKの中から、「これ」というものを見つけ出せればと考えています。

「マルチバイオマーカー」研究分野では、患者さん由来の試料から、最新の微量分析技術を用いて、新たながんマーカーを探索します。これまでは、末梢血中のタンパク質だけがマーカーとして使われてきましたが、血中には核酸や種々の代謝産物が含まれています。また、マーカーとなる物質は唾液・尿・糞便などにも含まれていると考えられます。これらの中から早期診断に有効なマーカーを見つけ出すことが大きな目標です。

がんの免疫療法は、日本ではまだ承認されたものはなく、世界的にもわずかしか承認されていません。このため「複合免疫療法」研究分野では、免疫マーカーのアッセイをまず行い、免疫療法の評価方法を確立してから、各免疫療法の有効性や薬による免疫誘導効果を確認し、複合的な免疫療法の構築を目指します。

本領域での研究開発にはどんな特徴がありますか?

間野:最大の特徴は、臨床腫瘍ネットワークの蓄積を生かす体制をつくったことです。がんのゲノム解析を全国規模で行うのは、日本では、おそらくこれが初めてではないでしょうか。薬が効くかどうかといった差違の理由をゲノムレベルで解析するには、一定のプロトコールで治療された患者さんのサンプルが多数必要ですから、この研究開発により、きちんと意味のある解析ができると考えています。

解析は、臨床シーズ支援基盤に、次世代シークエンサーという装置を備え、ゲノム解析の技術をもつ研究グループに参加していただいて、行います。次世代シークエンサーは、1日で数億塩基を読み取れるぐらいの能力がありますが、それでも、限られた台数で成果をあげるには効率よく解析を進める戦略が必要となります。そこで、臨床腫瘍ネットワークの蓄積を利用させていただき、テーマをきめ細かく絞って解析することにしたのです。この戦略で、物量に勝るアメリカに勝てる部分を生み出したいと思っています。

私が発見したチロシンキナーゼ(EML4-ALK融合キナーゼ)は、ある種の肺がんに特異的なもので、これを分子標的とする薬は劇的な効果を示します。同様の分子標的を発見できれば、製薬会社も興味をもってくれることでしょう。このミッションを果たすべく、本領域の研究開発をリードしていきます。

(2012年3月掲載)

本領域では、これまでにどんな成果があがっていますか?

間野:本領域では、約40の臨床試験において、その薬が効いた患者さん25人と効かなかった患者さん25人の全エキソンシーケンス解析を行ってきました。そして、そこで得られたデータから、新たな分子標的の候補や、バイオマーカーの候補が見つかりつつあります。例えば、小細胞肺がんの全エキソン解析で、新たな分子標的候補が見つかり、すでに開発中の薬が適用できる可能性が示唆されました。

本プログラムでは、16種類のがんについて、それぞれ100~200人の患者さんのデータが得られる予定です。これらは、いわば「日本人のがんゲノムのカタログ」となるわけで、今後の研究に非常に役立ちます。そこで、解析が終了したものからデータベース化し、公開しています(詳細は本プログラムのゲノム解析データポータルサイト参照)。これも、本領域の大きな成果の一つです。

「家族性がん」と「希少がん・小児がん」という2つの研究分野が新たに加わりましたが、その理由はなんですか?

間野:本領域には、これまで臨床腫瘍ネットワークを基盤とする研究分野が3つありましたが、今年度は、これまでとは違う視点で対象とするがん種を選び、既存分野と同様の研究を行うことになりました。「家族性がん」研究分野では、日本人の家族性がんの原因遺伝子を、シーケンス解析などにより明らかにしていくことが中心となります。「希少がん・小児がん」研究分野では、患者さんが少ないために研究が進んでいないがんにスポットをあて、予後を左右する遺伝子や新たな治療標的の同定を目指しています。

今後は、どのように研究開発を進めていくのですか?

間野:今年度から、既存分野では、新たな分子標的やバイオマーカーの候補について、さらに多くの患者さんのご協力をいただいて検証を始めています。これを加速し、医師主導治験や企業への導出につなげたいと思います。また、新たな研究分野でもゲノム解析データが得られる予定ですので、それらをデータベース化し、日本人のがんゲノムのカタログをさらに充実させていきます。データベースを多くの研究者に利用していただき、よりよい治療の開発に役立てていただければと願っています。

(2015年3月掲載)

間野博行(まの・ひろゆき)

東京大学大学院医学系研究科細胞情報学分野教授
東京大学医学部卒業。医学博士。東京大学医学部附属病院研修医、自治医科大学附属病院研修医、東京大学医学部第三内科助手、自治医科大学医学部分子生物学講座講師、自治医科大学ゲノム機能研究部教授、東京大学大学院医学系研究科特任教授を経て、2013年より現職。新規肺がん原因遺伝子EML4-ALKの発見と臨床応用の業績で、日本癌学会JCA-Mauvernay Award、日本医師会医学賞、武田医学賞、上原賞、慶應医学賞、紫綬褒章など多数の賞を受賞。