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TOP > インタビュー > がん臨床シーズ育成領域  分野長 東京医科歯科大学 三木 義男

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インタビュー INTERVIEW / 難治がんの遺伝子の特徴をつかみ弱点になる分子を見つけ出す / 難治がん研究分野 分野長 三木 義男 東京医科歯科大学 教授

難治がんとはどのようながんですか?

三木:難治がんとは、有効な治療法がないがん、治療経過中に転移や再発を起こしたがん、あるいは、診断時にすでに進行したがんを指します。代表的な難治がんにはすい臓がん、肺がんや卵巣がんなどがありますが、どのようながんでも治療が遅れれば難治がんとなってしまいます。最近では、分子標的治療や放射線療法などが目覚ましい進歩を遂げていますが、この難治がんによって命を落とす方がまだ多くいらっしゃるのです。

がんは、進行がんになる前の早期に発見された場合は、多くの方が治るようになってきました。しかし、一度治癒切除が行われた患者さんでも、10~20%は5年以内に再発しています。乳がんでは10年経ってからでも再発する場合があります。また、最近の研究により、最初にできたがん(原発巣)と、転移や再発によってできたがん(転移・再発巣)とは性質が異なる症例が多いことが明らかになり、これは、原発巣で効いていた薬が、転移・再発巣では効かない場合が多いことを意味しています。

本チームは、このような難治がんの特徴をつかみ、新しい薬や治療法を開発することによって、難治がんの患者さんを救っていきたいと考えています。特定の難治がんに特有で、そのがんの生存に欠かせない分子を見つけ、その分子を攻撃するような薬の開発を目指します。このような「分子標的薬」は、従来の、がんの増殖を抑えるタイプの抗がん剤とは違って、難治がんにも有効に作用すると期待されています。開発にあたっては、がんの弱点になる標的分子をいかに見つけるかがキーポイントとなります。

どのような方法で標的分子を見つけるのですか?

三木 :本チームでは、4つの指定課題と6つの公募課題により研究開発を進めています。その中のターゲットの1つに乳がんがあります。乳がんは一般的に他のがんと比べて5年生存率が高いがんとされています。しかし、治癒切除後2~3年で再発し、再発後の治療に対する感受性も人によって様々で、これまでの抗がん剤が効きにくい難治がんとなってしまう方もいます。

そこで、私は原発巣と転移・再発巣のがん組織を同一の患者さんから提供していただき、「分子プロファイリング」を行うことによって、転移・再発がんの特徴を見つけ出そうと研究しています。分子プロファイリングは、がんゲノムの塩基配列解析による遺伝子変異の探索が中心です。特に、遺伝子の中でもタンパク質合成にかかわる「エクソン」という部分の配列を次世代シーケンサーで網羅的に調べ(全エクソンシークエンス解析)、複数の患者さんの情報から標的分子を見いだし、新しい治療法や診断法につなげていきたいと思います。

分子プロファイリングによる新規標的同定を通じた難治がん治療法開発への道筋
次世代シーケンサーで得られた塩基配列の解析

乳がん以外に、どのようながんを対象としていますか?

三木 :山口俊晴先生(がん研究会)の指定課題では、大腸がんや胃がん、すい臓がんの転移・再発の特徴を、乳がんと同様の手法で調べています。加えて、Bリンパ腫についての研究も行っています。

Bリンパ腫には、リツキサンという分子標的薬を用いたR-CHOP療法が有効で、65%の方はBリンパ腫をほぼ完全に駆逐できるのですが、15%の方には効果がありません。全エクソンシークエンス解析により、この差の原因となる遺伝子を特定できれば、R-CHOP療法の有効性の診断が可能になり、効果のない方たちのための治療法の手がかりが得られると期待しています。また、R-CHOP療法が顕著に効く方たちの中にも、がんが再発し、R-CHOP療法が効かなくなってしまう例があります。これについても、治療耐性獲得に働く遺伝子の変化を明らかにし、新たな治療法開発に活かしたいと考えています。

矢野 哲 准教授(東京大学)の指定課題では、卵巣がんの治療感受性について研究しています。卵巣は体の奥にある臓器のため、がんが発見されたときには、すでに進行している場合がよくあります。また、まだ有効な分子標的薬がないため、治療は従来型の抗がん剤による化学療法が中心です。従来型の抗がん剤は原発巣にある程度有効ですが、再発も多く、最初から薬が効かない方も合わせると、全体の7割におよぶ卵巣がん患者が難治がんと闘わなくてはなりません。そこで、患者さんからいただいたがん組織から、再発がんや薬が効かないがんに特有の分子を見つけ出し、治療法の開発、特に分子標的薬の開発を目指します。

標的分子を見つけて有効な分子標的薬を開発できれば、難治がんは克服できるのでしょうか?

三木 :分子標的薬は、標的となる分子が発現しているがんには劇的に効く薬で、副作用が少ないというメリットもあります。しかし、分子標的薬を使っているうちに、獲得耐性といって、耐性をもったがんが再発する場合があります。また、初期耐性といって、標的分子をもっているにもかかわらず、はじめから分子標的薬が効かないという場合もあります。

このような耐性に対処するには、耐性が生まれるしくみを知る必要があります。例えば、標的分子を攻撃してがんの1本の生命線を断ったとしても、それを補うための迂回路をがんがつくってしまうというケースが報告されています。このケースであれば、迂回路も同時に攻撃する分子標的薬を併用すれば、耐性をもつがんを感受性に変えることができるのです。

そこで、矢野聖二教授(金沢大学)の指定課題では、がんがどのように初期耐性や獲得耐性を形成しているのかを、分子プロファイリングによって研究しています。初期耐性や獲得耐性のメカニズムが明らかになれば、耐性を打ち破ることも可能になっていくと期待されます。

がんが分子標的薬に対して耐性をもつしくみ

公募課題にはどのような研究がありますか?

三木 :公募課題には、指定課題の対象以外の発生頻度が高いがんや、頻度が少なくても重要な課題を含んでいるがんが選ばれています。

後藤功一先生(国立がん研究センター )は小細胞肺がんをターゲットとした全ゲノム解析を進めています。田中真二准教授(東京医科歯科大学)は、肝がんのうちでも予後の悪いものについて、分子レベルの特徴を調べています。稲澤譲治教授(東京医科歯科大学)は食道がんを対象としています。食道がんは欧米と日本で性質が異なり、欧米では腺がん、日本では扁平上皮がんが多く、欧米のデータが使えないため重要な研究となります。

滝田順子講師(東京大学)は、肝芽腫という非常に予後の悪い小児がんの分子レベル解析と治療法の開発を目指しています。斉藤延人教授(東京大学)は悪性脳腫瘍克服のための新規治療標的とバイオマーカーの開発を行っています。中野孝司教授(兵庫医科大学)は、アスベストが原因とされる悪性中皮腫について研究しています。兵庫医科大学は、多くの患者さんがいる地域にあるので、患者さんの協力を得て新しい標的分子の探索を早く進められればと期待しています。

研究で特に心がけていることは何ですか?

三木 :研究には多くのがん組織の検体が必要です。しかし、その検体を提供して下さる患者さんは、再発や転移により「難治がん」という厳しい状況におられます。さらに、提供していただいた検体を用いた研究成果は、次の世代の患者さんに活かされますが、残念ながらご本人がすぐにフィードバックを受けられる可能性は低いと言わざるを得ません。このように、検体を提供して下さる患者さんが非常につらいお気持ちでいることは、想像に難くありません。そういう方々に誠意をもって正確に説明をしてお願いすること、倫理的な問題に細心の注意を払うことを、スタッフ全員が肝に命じています。そして、少しでも早く難治がんを克服できるように研究に尽力していきたいと思います。

(2013年3月掲載)

三木 義男(みき・よしお)

東京医科歯科大学 難治疾患研究所 ゲノム応用医学研究部門 分子遺伝分野 教授
公益財団法人がん研究会 がん研究所 遺伝子診断研究部 嘱託部長
和歌山県立医科大学卒業。医学博士。兵庫医科大学第2外科研修医、癌研究会癌研究所 生化学部嘱託研究員、ユタ大学メディカルセンター 医療情報学専攻研究員、癌研究会癌研究所生化学部研究員、同 癌化学療法センターゲノム解析研究部主任研究員、同 癌研究所遺伝子診断研究部部長を経て、2002年より現職。ゲノム科学を応用し、おもに乳がんや大腸がんのオーダーメイド医療の実現を目指している。1994年に遺伝性乳がんの原因遺伝子BRCA1を同定。これは、がん遺伝子研究の先駆的な成果として知られる。