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インタビュー INTERVIEW / 家族性がんの原因遺伝子を調べ、診断と治療に役立てる / 家族性がん研究分野 分野長 中村清吾 昭和大学 教授

家族性がんとはどのようなものですか? この研究分野が本プログラムに新たに加えられたのはどんな理由からですか?

中村:親から子に遺伝子の変異が伝わって、それががんを発症するリスクにつながることがあります。こうしたがんを家族性がんと呼んでいます。例えば、私が専門にしている乳がんの場合、日本では乳がんにかかる人が毎年約8万人いますが、このうち5〜10%ぐらいが家族性(遺伝性)と考えられています。

しかし、家族性がんの原因となっている遺伝子は、まだ、一部しかわかっていません。また、欧米にはさまざまな家族性がんの登録制度があり、遺伝子の解析が行われていますが、我が国では、遺伝子検査に保険が適用されないこともあって、遺伝子の解析はあまり進んでいないのが現状です。そこで、がん臨床シーズ育成領域の研究分野の1つとして、本チームが設けられました。本チームでは、家族性がんの研究を全国的な組織で行ってきた研究者が、患者さんから提供していただいた血液や組織から遺伝子を調べ、原因となる遺伝子を探索します。

中村先生が担当される家族性乳がんの課題は、どのように進めるのですか?

中村 :これまで知られている家族性乳がんの代表的な原因遺伝子は、BRCA1とBRCA2の2つです。これらはいずれもがん抑制遺伝子で、1994年と1995年に相次いで見つかりました。がん抑制遺伝子に変異があると、細胞ががんになることを抑制するブレーキがこわれて、がん化が起こります。

BRCA1に変異があると乳がんや卵巣がんが生じるリスクが高くなり、BRCA2に変異がある場合には、乳がんや卵巣がん、すい臓がんを発症するリスクが高くなることが知られています。そこで、遺伝性がんが疑われる患者さんとして、「これらのがんを発症した」、「家族内に乳がん患者がいる」、「若いうちに乳がんを発症した」、「両側の乳房にがんが出た」、「男性乳がんである」といった条件の方を対象に、BRCA1とBRCA2の変異の有無を調べます。

ただし、私たちが以前に日本乳癌学会の研究班で調べたところ、これら2つの遺伝子の変異が関与している例は家族性乳がんが疑われる患者さん全体の30%程度にすぎませんでした。そこで、どちらにも変異がない乳がん患者さんを対象に、ほかの原因遺伝子があるかどうかも調べます。以前から乳がんの原因遺伝子として知られているTP53、PTENなどの遺伝子を調べるほか、未知の遺伝子の関与があるかどうかにもあたりをつけたいと考えています。さらに、日本人に特有の遺伝子の有無を知ることも目標です。遺伝子解析は、ゲノム解析支援基盤の支援を受け、次世代シークエンサーを活用して行います。

本課題には、私のほか、がん研究会有明病院、聖路加国際病院、四国がんセンター、慶應義塾大学医学部の研究者が加わっており、それぞれの機関で患者さんに協力をお願いする予定です。遺伝子検査を行う際には、患者さんへの説明、検査同意の取得、検査結果の報告と遺伝子カウンセリングなどが大切になってきますので、倫理支援基盤の支援も受けながら、慎重に進めます。特に、家族性であるとわかった患者さんには、遺伝情報を正しくお伝えし、予防や治療に役立てていただきたいと思っています。

中村教授が研究代表者を務める課題「次世代シークエンス解析技術を駆使した家族性乳がんの原因探索」の研究計画

中村教授が研究代表者を務める課題「次世代シークエンス解析技術を駆使した家族性乳がんの原因探索」の研究計画

中村先生の課題で期待される成果はどんなことですか?

中村 :遺伝子の解析結果は臨床情報とともにデータベース化し、研究や診療に活用していただく予定です。また、遺伝子を調べることは薬の開発にも貢献します。現在、BRCA1やBRCA2に変異のある乳がんや「トリプルネガティブ」と呼ばれる乳がんの治療薬として、分子標的薬であるPARP(ポリ(ADP-リボース)ポリメラーゼ)阻害剤がさかんに開発されています。このような薬を開発する際、まず、その薬が効きそうな遺伝子変異のある人を見つけ出し、そのグループに的を絞って効果を検証すれば、開発が速く進むでしょう。そうなれば、遺伝子検査が治療に結びつき、基礎研究の成果と臨床がつながることになります。

他の2つの課題について概略を教えてください。

中村 :横浜市立大学の矢尾正祐(まさひろ)教授の課題では、「バート・ホッグ・デュベ(BHD)症候群」という希少疾患の診断マーカーと治療標的分子の探索を行います。この病気は、原因遺伝子が17番染色体上に存在し、おもな病変として、腎がん、皮膚腫瘍、多発性肺嚢胞や自然気胸が起こるのですが、まだ、病気の存在自体があまり知られていません。そこで、一般の方と臨床医に呼びかけて、遺伝子解析を行う体制をつくり、研究を進めています。 BHD症候群自体はまれな疾患ですが、腫瘍をはじめとした病変が起こるメカニズムは、遺伝性と非遺伝性で共通点が多く、この疾患の研究を突破口にして通常の腎がんにも有用な新しい診断や治療法の開発を目指しています。

国立がん研究センターの谷内田(やちだ)真一先生の課題では、家族性すい臓がんの原因遺伝子を探索します。欧米での研究の結果、家族性すい臓がんの原因遺伝子として、先ほどもお話ししたBRCA2も含め、いくつかの遺伝子が見つかっています。この課題では、日本膵臓学会を通じて、家族性すい臓がんの患者さんやそのご家族に協力をお願いし、日本人の原因遺伝子を探索します。すい臓がんは治療が難しいことから、「がんの王様」ともいわれていますが、遺伝子解析によりハイリスクの患者さんを見つけられれば、適切なスクリーニング検査や治療を行うことが可能になります。

BRCA2遺伝子の変異が乳がんでもすい臓がんでも見つかるように、ある遺伝子の変異が複数のがんに共通する原因となっていることはよくあります。本チームの中だけでなく、革新的がん医療シーズ育成領域、がん臨床シーズ育成領域の先生方と情報交換を密にし、連携することで、効果的な研究開発を進めたいと思っています。

(2015年7月掲載)

中村 清吾(なかむら・せいご)

昭和大学医学部乳腺外科教授/昭和大学病院ブレストセンター長
千葉大学医学部卒業。医学博士。聖路加国際病院外科レジデント、同外科医幹(乳がんクリニック担当)、同外科副医長、同外科医長(管理医長)、同ブレストセンター長、乳腺外科部長を経て、2010年より現職。この間に、American Council for SLIMC基金によるM.D. Anderson Cancer Centerでの研修(1997年)、McMaster大学でのEBM研修(1999年)を受ける。我が国における乳がん診療の第一人者として知られ、日本乳癌学会理事長、NPO法人日本HBOCコンソーシアム理事長として研究をリードする一方、講演や著書を通じて一般への啓発に努めている。