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インタビュー INTERVIEW /ネットワークを通じて症例を集め、ゲノム解析を進める/ 希少がん・小児がん研究分野 分野長 堀部敬三 名古屋医療センター 臨床研究センター長

希少がんや小児がんとはどういうものでしょうか。

堀部:希少がんの明確な定義はありませんが、ヨーロッパでは1年間の発生率が人口10万人あたり6例未満、アメリカでは10万人あたり15例未満のがん種とされています。我が国では、患者数の多い「5大がん」(胃がん、大腸がん、肺がん、肝臓がん、乳がん)に比べて発症率が数十分の1~数百分の1と非常に低いがん、つまり、年間の発症数が5000人未満のがんを希少がんと呼んでいます。5大がんはいずれも上皮性組織に由来する悪性腫瘍(癌腫)ですが、希少がんは非上皮性組織に由来するものが多く、肉腫、脳腫瘍、皮膚腫瘍、眼腫瘍、中皮腫、副腎がん、神経内分泌腫瘍などに分類されます。これらの中にもさらに種類があり、治療法もそれぞれ異なります。

小児がんは、小児期に発生する悪性腫瘍の総称です。小児がんは希少がんの集まりで、すべてをあわせても発生率は10万人あたり10人程度です。その種類は大人のがんとは大きく異なり、一番多いのは白血病です。他には、リンパ腫、脳腫瘍が多く、また、神経芽腫、肝芽腫など小児期固有のがんもたくさんあります。最近は、小児がんの患者さんの70~80%が治癒するようになりましたが、それでもなお、小児期の病死の原因の第1位を占めています。

希少がんや小児がんは、患者数が少ないために、専門の医師や施設も少なく、診断や治療法の開発が遅れているのが現状です。

本チームの目標を教えてください。

堀部 :近年、遺伝子解析技術が急速に進歩し、ゲノムの網羅的解析が行われています。その結果、主要ながんでは、遺伝子レベルでの病態解明が進み、それをもとにした診断法や治療法の開発が行われています。しかし、希少がんや小児がんでは、十分な症例数を用いてのゲノム解析研究は限られており、まだ研究が始まっていないがんもたくさんあります。そこで、本研究分野では、希少がんや小児がんについて、多数の症例を収集してゲノム解析を行います。ゲノム解析によって、小児がんや希少がんを特徴づける遺伝学的な基盤を明らかにし、分子標的薬や早期診断法の開発につなげることが目標です。

研究開発をどのように進めていますか。

堀部 :症例数の多いがんの場合は、いくつかの施設がネットワークを組むことで、十分な数の症例を集めることができますが、希少がん・小児がんの場合は、全国から症例を集めなければなりません。そのためには、一つひとつのがんについて、全国的な施設のネットワークをつくり、基幹施設がそのネットワークを通じて臨床試料を収集し、管理することが必要です。

本チームの課題は6つで、そのうち3つが小児がんに関するものですが、実は、小児がんでは、すでに全国的なネットワークによる多施設共同臨床試験の実績があり、2014年12月には日本小児がん研究グループ(JCCG)が構築されました。基幹施設が臨床試料や臨床情報を集め、一元的に管理する体制ができつつあります。希少がんの3つの課題についても、これまでの努力により、臨床試料収集のネットワークがつくられています。さらに、基幹施設が、次世代シーケンス技術をもつ研究機関や支援基盤と連携することで、集められた試料の解析を円滑に進める予定です。

全国的なネットワークが希少がん・小児がんの次世代治療を創る

全国的なネットワークが希少がん・小児がんの次世代治療を創る

6つの研究課題の概略や特徴を教えてください。

堀部 :私の課題では、JCCGのプロジェクトとして3つの小児がんを対象とした研究が行われています。1つは急性リンパ性白血病です。初発時と再発時のゲノム、エピゲノムを比較することで、再発の機序を解明するとともに、再発を予測するマーカーや分子標的薬を探索します。もう1つは乳児白血病で、遺伝子異常と薬の効きやすさの関係などを調べます。3つめは肝芽腫で、予後の予測に役立つバイオマーカーを見いだす計画です。

京都大学の上久保靖彦准教授の課題もJCCGのプロジェクトで、JCCGの臨床試験により収集された小児急性骨髄性白血病の臨床試料のゲノム解析を行い、新しいバイオマーカーや治療標的の同定を目指します。

名古屋大学の村松秀城助教の課題では、若年性骨髄単球性白血病の網羅的遺伝子解析により、予後の予測マーカーや治療標的となる遺伝子変異を探索します。

希少がんについての3つの研究課題のうち2つは軟部肉腫についての研究です。軟部肉腫は、40を超える種類がある上に症例が少なく研究が難しいがんです。そこで東京大学の松田浩一准教授を中心に、軟部肉腫ゲノム解析コンソーシアムがつくられ、全国8施設で臨床試料が集められています。そして、これらのうち脱分化型脂肪肉腫を対象としてゲノム解析を行い、治療標的を探索します。

国立がん研究センターの市川仁先生の課題では、17施設からなる別の臨床研究グループから提供された試料を使い、もう少し範囲の広い軟部肉腫を対象として、薬が効いた症例と効かなかった症例のゲノムを比較し、薬の効きやすさに関する因子を探索します。

国立がん研究センターの土原一哉先生は、欧米に比べ日本人に多い若年発症胆管がんのゲノム解析を行います。近年、印刷工場の従業員に胆管がんが高い割合で発生し、有機溶媒を扱ったためではないかと考えられています。そこで、それらの患者さんの試料を用いてゲノム解析を行い、発症や進展の原因を探ります。

網羅的なゲノム解析では、実際に解析を始めてみないとどのような発見があるのかわかりません。しかし、これらの研究を進めることが、希少がんや小児がんの研究のブレイクスルーにつながり、これらのがんで苦しむ患者さんの治療に活かされることを信じています。

(2015年7月掲載)

堀部 敬三(ほりべ ・けいぞう)

独立行政法人国立病院機構 名古屋医療センター 臨床研究センター長
名古屋大学医学部卒業。医学博士。大学院在学中にメモリアル・スローン・ケタリングがんセンター(米国)に留学。大学院修了後、名古屋第一赤十字病院小児科医員、名古屋大学医学部小児科助手、同講師、同助教授を経て、国立名古屋病院小児科医長、同臨床研究センター長に。2004年組織改編により、現職となり小児科医長併任。小児がん、特に白血病と神経芽腫について、早くから遺伝子レベルの研究を行い、診断と治療に貢献してきた。治療研究では、急性リンパ性白血病などの多施設共同臨床研究を組織、牽引するために尽力し、日本小児白血病リンパ腫研究グループ(JPLSG)、その後、日本小児がん研究グループ(JCCG)の設立に導いた。2014年から日本小児血液・がん学会理事長を務める。