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TOP > インタビュー > 創薬基盤融合技術育成領域  分野長 京都大学 山田 泰広

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インタビュー INTERVIEW / 創薬を支援する革新的技術の確立を目指して / iPS/アニマルモデル研究分野 分野長 山田泰広 京都大学教授

本研究分野ではどんな研究・開発に取り組んでいますか?

山田:日本発のiPS細胞(人工多能性幹細胞)作製技術と、アニマルモデルの作製技術をもとに、がん創薬に役立つ革新的な技術を開発することを目指しています。将来的には、本チームで開発した技術を発展させ、創薬プラットフォームを確立できればと考えています。

本研究分野の役割

本研究分野の役割

iPS技術は、がんの創薬にどのように利用できるのでしょうか?

山田:スクリーニングに生かすという面と、治療に使うという面の2つがあります。京都大学の河本宏教授の課題は後者で、iPS技術を使って、がんを攻撃するT細胞をたくさんつくろうというものです。用いるのはiPS技術ですが、T細胞は免疫系の重要な細胞なので、河本教授は、革新的がん医療シーズ育成領域の「免疫機構をターゲットとした創薬」研究分野の先生方といっしょに研究を進めています。

私自身の課題は前者で、iPS技術を抗がん剤のスクリーニングに生かすための研究です。体細胞に、いわゆる「山中4因子」を導入すると初期化され、iPS細胞となることが知られています。しかし、がん細胞は山中4因子を導入しても初期化しにくく、なかなかiPS細胞にはなってくれません。このことに着目して、新たなスクリーニング系を開発しようと考えています。

私の課題のもう1つのテーマは、がん細胞の運命を変える方法の探索です。体細胞とiPS細胞のゲノムは同じであり、ゲノムの使い方を決めるエピゲノムを変えることで体細胞がiPS細胞に変わります。iPS技術を応用すれば、がん細胞のエピゲノムを変えることで遺伝子変異の影響を押さえ込み、「がん細胞ではない細胞」に変えられる可能性があります。同時に、エピゲノムではここまでしか変えられないという限界も明らかになるかもしれません。いずれにせよ、がんの治療法開発のきっかけとなる知見が得られると期待しています。

本研究分野では、どのようなアニマルモデルを開発するのですか?

山田:薬の候補化合物のスクリーニングや、既存薬の治療効果の判定などに使用できる、革新的な動物モデルを開発します。

大阪府立成人病センターの井上正宏先生の課題では、先生が独自に開発したがん細胞初代培養法(CTOS:Cancer Tissue-Originated Spheroid法)を応用し、大腸がんと肺がんの細胞パネルをつくるとともに、このパネルを用いたスクリーニングシステムを構築することを目指しています。

患者さんのがん細胞はそのままでは培養することが難しいため、がん組織を免疫不全マウスに移植したり、それを植え継いだりして、研究に用います。この移植片はPDX(Patient Derived Xenograft)と呼ばれ、ヒトがんの特性を比較的保ったまま細胞を維持できますが、生きたマウスを使うので様々な制約があります。これに対し、井上先生のCTOS法では、患者さんのがん組織を適切な条件ですぐに分散・ろ過することで、ヒトがんの特性を損なわずに細胞を培養できます。このため、多数の患者さんに由来する細胞をそろえ、パネルをつくることができるのです。

CTOS法を応用すると、PDXの自由度も広がります。PDXから取り出した細胞をCTOS法により培養したり、逆に、CTOS法で培養した細胞を免疫不全マウスに移植して腫瘍をつくらせたりという「シャトル」が可能になるので、ふだんはCTOS法による細胞を凍結保存しておき、必要なときにPDXをつくることができます。

もう1つの課題は、がん研究会がん研究所の中村卓郎先生が進めているものです。中村先生はヒトの肉腫のモデルマウスを作製し、それを用いて、分子標的薬、核酸医薬の薬効評価を行う予定です。肉腫は骨や筋肉に発生するがんで、患者さんが少ないために発生メカニズムの研究や治療法の開発が遅れています。モデルマウスの作製は、このような状況を改善するものと期待されます。

中村先生は、すでに、ユーイング肉腫のモデルマウスの作製に成功しています。この肉腫の原因はEWS-FLI1融合遺伝子であることが知られていますが、この遺伝子をマウスやヒトのふつうの細胞に導入しても、肉腫は再現できません。中村先生は軟骨のもとになる細胞に着目し、マウスのこの細胞にヒトのEWS-FLI1融合遺伝子を導入することで、肉腫を再現しました。この成果を生かして、ほかの肉腫についてもモデルマウスの作製を目指しています。

(2015年7月掲載)

山田 泰広(やまだ・やすひろ)

京都大学iPS細胞研究所初期化機構研究部門/物質−細胞統合システム拠点 教授
岐阜大学医学部卒業。医学博士。岐阜大学医学部第一病理助手、日本病理学会専門医、マサチューセッツ工科大学ホワイトヘッド研究所(Rudolf Jaenisch Lab)研究員、岐阜大学大学院医学系研究科講師、同研究科准教授 、京都大学iPS細胞研究センター/物質−細胞統合システム拠点 主任研究員、同センター/同拠点 特定拠点教授を経て2012年から現職。2008~2012年科学技術振興機構さきがけ研究者を兼任。早くからエピゲノムとがんの関係に着目した研究を展開し、近年は、遺伝子の変異によらないがん化のしくみを解明するなど、iPS技術を用いたがん研究で多くの成果をあげている。