本プログラムは平成28年3月31日をもって終了いたしました

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インタビュー INTERVIEW / プログラム発足にあたって / プログラム・リーダー 野間哲生 公益財団法人 がん研究会がん研究所所長

このプログラムの2つの柱である「革新的がん医療シーズ育成」と「がん臨床シーズ育成」は、どのような背景から決められたのでしょうか?

野田:近年、新たに上市されるがんの薬は欧米企業によって開発されたものがほとんどです。日本の基礎研究は非常に優れた成果を出しているのに、その成果を育てて製薬企業に渡すバイオベンチャーが、日本にはほとんど存在しないことが、その原因です。そこで、「革新的がん医療シーズ育成」では、がんの基礎研究が優れた成果をあげている分野を5つ選び、少数の研究者からなるチームをつくって研究開発を行っていただくことにしました。同時に、これらのチームが、バイオベンチャーに代わって優れた成果(シーズ)をがん治療薬の素(リード)にまで育成するために必要となる、各種の支援体制を構築しました。これにより、革新的なシーズの発見から薬の候補を絞り込むまでのプロセスを、一体的、かつ効率的に進めていきます。

一方、日本のがん臨床研究もレベルは高く、種々の貴重なサンプルが蓄積されています。こうしたサンプルを、ゲノム解析をはじめとする先進的な解析技術により詳しく調べることで、ある薬が効くかどうかを示すバイオマーカーや、新たながんの治療法や診断法のシーズが見つかる可能性があります。実際の治療法・診断法開発においては、このような「リバース・トランスレーショナル研究(R-TR)」が非常に重要です。そこで、「がん臨床シーズ育成」では、異なる角度からR-TRを行う5つのチームをつくり、ゲノム解析を中心とした技術的側面や、患者さんからの試料を用いることに伴う倫理的側面で充実した支援を行うことにより、効率的に研究を推進します。

このプログラムのおもなターゲットである、難治性がんとはどういうものですか?

野田:がんは非常に多様です。治療薬や外科手術の手法の進歩により、多くのがんで5年生存率が向上していますが、膵臓がんに代表されるように、有効な治療法がなかなか開発されないがんもあります。また、多くのがんにおいて、初期は、比較的治りやすくても、それが再発・転移をすると、なかなか有効な治療法がないのが現状です。それらのがんすべてが難治性がんです。こうした難治性がんを完治させる治療法の開発が、このプログラムの大きな目標です。

具体的には、どんながんの薬の開発をめざしているのですか?

野田:これまで、がんの薬は細胞の増殖を抑えるものが中心でした。がん細胞は正常細胞より速く増殖するからです。しかし実際には、がんの中の細胞すべてが速く増殖しているわけではありません。現在、がんの薬は「分子標的薬」が主流となっています。これは、がん細胞と正常細胞がもつ分子(遺伝子をもとにつくられるタンパク質)の性状の違いに着目し、がん細胞に特有の分子を標的として、その働きを阻害する薬です。

私たちは、この考えをさらに進め、がん細胞にとっては重要だが、正常細胞は使っていない細胞内の新たなシステムに着目し、その中から新たな分子標的を見いだそうと考えています。このように、基礎研究の成果によってもたらされた、多様性をはじめとするがんの動態のより深い理解に立脚した戦略をとることで、難治性がんに対しても有効な分子標的が見つかると期待しています。例えば、実際に増え続けているがん細胞を叩くだけでなく、それらを生み出すもとになると考えられる「がん幹細胞」を殺す薬は、まだ開発されていません。そこで、がんを根治させる薬を開発するため、「がん幹細胞」を狙い打ちする薬の開発研究にも取り組みます。

革新的シーズとはどんなものですか? それを育てるためにどんな支援をする予定ですか?

野田:上で述べたような、「がんのより深い理解から見つかる分子標的」が、革新的シーズの代表例です。こうした新たな分子標的がある場合、それを育てるには、細胞や動物を使って、それがほんとうに抗がん剤の標的となるのかを確認するシステムや、たいへん多くの化合物の中から阻害薬の候補物質を探索するシステムが必要ですが、これらは大学や公的機関には備わっていないのが普通です。そこで、そうしたシステムを提供する支援基盤を設けます。また、育てたシーズに関しては、それをもとに治療薬開発に乗り出す製薬企業を探したり、それら企業との折衝の手助けもする予定です。

がん臨床シーズ育成で行うゲノム解析とはどんなものですか?
どのような成果が期待されるのですか?

野田:ゲノム解析とは、基本的には、細胞に含まれるゲノムDNAの塩基配列を調べることです。例えば、ある薬が効くがんと効かないがんのゲノムDNAの塩基配列を比べ、どこに違いがあるかを調べます。違う部分をバイオマーカーとして使えば、あらかじめ薬が効くかどうかを簡単に判断でき、むだな投薬を防ぐことができます。また、がんはDNAにもともと変異があったり、環境要因でDNAが変異を起こすことで起こります。さまざまながんの細胞と正常細胞のゲノムDNAを比べれば、「がんを起こす変異」のカタログをつくることができ、その中から、新たな分子標的を発見できます。

ゲノム解析の支援としては、どのようなことを予定していますか?

野田:上のような研究が可能になったのは、近年、ゲノム解析技術が急速に進歩し、大規模な解析が迅速に行えるようになったからです。こうした解析には次世代シークエンサーと呼ばれる装置が用いられますが、まだ高価であり、また、効率よく使いこなすには試料の調製から解析データの情報処理にいたるさまざまな技術が必要です。このため、支援基盤には次世代シークエンサーを導入し、臨床の研究者からの依頼により患者さんのがんサンプルのゲノムの塩基配列を解読して、得られる情報をまた臨床研究者にお返しするといった支援を計画しています。

研究成果の実用化において、欧米に追いつき、追い越すことは可能でしょうか?

野田:「がんを知ること」は、必ず「がんを制すること」につながります。近年、「がんを知ること」から「がんを制すること」までにかかる時間は、どんどん短くなっています。これは、がんを知ることで優位にある日本にとっては有利な状況ですから、チャンスは十分にあると考えています。日本人のがんの分子標的や日本人のゲノム解析情報をもとに、外国企業が薬を開発し、日本の市場を席巻するような事態は絶対に避けなければなりません。相手は手強いですが、プログラムのメンバーが一丸となって研究に取り組んでいきたいと思います。国民の皆様のご支援とご協力を賜りますよう、お願い申し上げます。

(2012年3月掲載)

平成26年度から、本プログラムの体制が拡充されました。その背景には、どのような国の施策の変化があったのでしょうか?

野田:我が国では、政府が昭和59年に「対がん戦略10カ年総合戦略」を開始し、以降、10年ごとに新たな戦略を立ててがん研究を推進してきました。この30年の間に、推進すべき内容は、研究から対策へとシフトしてきています。また、推進に関わる省庁の連携も十分とはいえない部分がありました。

そこで、「今後のがん研究のあり方に関する有識者会議」で今後のがん研究の方向性と具体的な研究テーマが検討され、平成25年に報告書が提出されました。その一方で政府は、健康長寿社会を実現するとともに経済成長も目指す「健康・医療戦略」の策定を進めてきました。そのため、平成26年3月にまとめられた、新たな「がん研究10か年計画」は、国の健康・医療戦略のもとで進められることになりました。

平成27年度から、国の健康・医療戦略に関する研究開発は、日本医療研究開発機構(Japan Agency for Medical Research and Development:AMED)のもとに再編され、一本化されることになっています。これに伴い、文部科学省が平成23年度に開始し、5年計画で推進してきた本プログラムも、最後の1年(平成27年度)はAMEDに組み込まれることになりました。

AMEDの発足を先取りする形で、平成26年度から関係省庁が一体となって疾病ごとの取り組みを始めています。本プログラムは、それらのうち、がん医療の実用化を加速する「ジャパン・キャンサーリサーチ・プロジェクト」の一翼を担うことになりました。本プログラムは、基礎研究で得られたシーズを、治験等に利用可能なレベルにまで育てる研究開発を進め、成果を厚生労働省所管の「革新的がん医療実用化研究事業」に導出します。もちろん、本プログラムから企業への導出も可能です。一方、革新的がん医療実用化研究事業の臨床研究で得られたサンプルなどは、本プログラムに還元されます。

この枠組みは、平成27年度にAMEDが設立された後も、継続される予定です。これまで培ってきた本プログラムの役割が、維持され、より明確になってAMEDに入るわけです。こうした大きな外的環境の変化を受け、平成26年度に、本プログラムの体制が拡充されました。

具体的には、どのような拡充が行われたのですか?

野田:まず、革新的シーズの育成プロセスの「後半」を加速するための拡充を行いました。革新的がん医療シーズ育成領域の既存課題では、これまでの3年間、分子標的に作用するシーズの育成を進めてきました。これにより、True-Hitと呼ばれる薬の候補が数多く誕生しています。しかし、残り2年の研究開発期間で、このTrue-Hitを薬へと育て、導出するには、もっと積極的な支援が必要です。そのために支援基盤を強化しました。

例えば、がんの薬をDDS(Drug Delivery System)とカップリングさせれば、より有効に目的の組織に届けることができます。また、感度のよいイメージング技術を使えば、ごく微量で薬の体内での動きを調べることが可能です。こうしたDDSやイメージングの技術を中心に、支援基盤を整えました。

一方、革新的がん医療シーズ育成領域とがん臨床シーズ育成領域に、基礎研究によって新たなシーズが次々に生まれている研究分野を2つずつ加え、どちらも7研究分野としました。また、既存の研究分野についても、2年間で導出に至る可能性がある有望な課題を加えました。さらに、上でお話しした後半の支援を意識して、創薬基盤融合技術育成領域という新たな領域を設け、3研究分野で研究開発を進めることにしました。研究課題は全部で約150課題となっています。

このように拡充された体制で、本プログラムを推進していきます。基礎研究で生まれたシーズを育て、少しでも早く患者さんに薬として届けられるよう、全力を尽くしますので、引き続き、皆様のご支援とご協力をいただけますようお願いします。

(2015年3月掲載)

野田哲生(のだ・てつお)

公益財団法人がん研究会 がん研究所所長
東北大学医学部医学科卒業。医学博士。京都大学ウイルス研究所助手、米国MITホワイトヘッド研究所留学、(財)癌研究会癌研究所細胞生物部部長、東北大学大学院医学系研究科教授、同附属創生応用医学研究センター長を経て、2006年4月より現職。日本癌学会理事長も務める。「変異マウスを用いた発癌制御遺伝子の解析」や生体組織の分化に関わる重要な遺伝子の解析に多くの先端的業績がある。