本プログラムは平成28年3月31日をもって終了いたしました

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インタビュー INTERVIEW / 患者さんの試料を適正に利用させていただくために / 次世代がん医療創生研究HQ 研究倫理支援 武藤 香織 東京大学 教授

「研究倫理支援グループ」が設置された背景と、本プログラムにおける役割について教えて下さい。

武藤:本プログラムでは、がんの患者さんから細胞や血液などの試料をいただいて研究をします。このような「人を対象とする研究」を行う場合、患者さんの権利や尊厳を守ることを最優先に考えなくてはいけません。そのため、研究者は研究を開始する前に、自分が所属する研究機関の倫理審査委員会に研究計画書を提出し、その研究が倫理的に妥当かどうかの審査を受けるルールになっています。

しかし、現場の研究者がこうした審査を受ける際、研究倫理の考え方や審査手続きの進め方を十分に理解しておくことは難しいのが現状です。また、本プログラムの研究者はそれぞれ異なる研究機関に所属していますが、倫理審査委員会は研究機関ごとに設置されていて、一つひとつ個性があります。そこで、私たちのグループは、本プログラムの倫理面の共通方針を策定し、研究者たちがそれぞれの倫理審査委員会で審査を受ける際に助言します。また、収集された試料をもとに、臨床シーズ支援基盤で詳しいゲノム解析を実施する前に、倫理的な手続きが完了しているかどうかを確認する任務を負っています。つまり、倫理的妥当性が確保された研究を迅速かつ円滑に進めるための手助けをするために設置されました。

具体的にどのような取り組みをされているのですか?

武藤:研究倫理支援に関する専用のシステムを立ち上げ、そこで研究者と研究倫理に関する相談のやりとりをしたり、研究者が倫理審査委員会で承認を受けた書類を一元的に管理したりしています。研究者が一堂に会する機会に、研究倫理についてお話をすることもあります。

また、倫理審査委員会の承認が下りたあとに、研究の経過をモニタリングするのも私たちの大事な仕事です。例えば、研究計画で示した目標より試料数が多く収集される見込みが立ってきたとか、新たな研究目的を追加したいといった場合には、研究計画を変更して、あらためて倫理審査委員会の承認を受ける必要があります。研究者はついつい研究に熱中して手続きを忘れてしまいがちなので、注意喚起することも私たちの仕事です。

また、お亡くなりになった患者さんやもう通院していない患者さんの場合には、病院に残された試料をこの研究に使用することについて、あらためてご本人に同意を得るのが難しい場合があります。その場合は、積極的な広報をすることが国の倫理指針で定められているので、本サイトでも案内を出しています。

倫理審査委員会への申請から承認を得るまで、どのぐらいかかりますか?

武藤:先ほども言いましたように、日本では研究機関ごとに倫理審査委員会が設置されていて、個性があります。委員会の開催方法や開催回数もバラバラなので、なんともいえません。ただ、国の倫理指針ができてから10年たちますが、当初は、申請書類に誤字があるとか、記述に矛盾があるなど、審査は校正の場になってしまっていて、本質的な倫理面の議論にまでなかなか進まない委員会が多かったようです。最近は、研究機関の中に、私たちのように倫理審査委員会と研究者の間に入って支援する立場の人が増えてきて、かなり時間が短縮されてきています。

本プログラムにおいても、研究者の所属する倫理審査委員会で、なるべく迅速に本質的な議論に入れるように応援をしていきます。私たちが、倫理審査委員会の人たちと直接、接点をもつことはできませんが、例えば、本プログラムの倫理面の考え方やどういった点が議論の争点になりそうかということをパンフレットにして配布するなど、倫理審査委員会の方向けの情報提供にも力を入れていきたいと思っています。

支援にあたって難しいのはどんな点ですか?

武藤:本プログラムに限ったことではありませんが、研究者の方たちと歩調を合わせることが難しいですね。研究者は、「この研究はGoかNo goか」と私たちに答えを求めがちです。しかし、研究倫理の問題は複雑で、そう簡単に答えられるわけではありません。法的に考えてどうか、倫理指針上どう解釈できるのか、マスメディアはどう受け取るか、患者さんはどう思うかなど、いくつかの水準で見たときに、それぞれリスク/ベネフィットがあります。それらの点について研究者といっしょに考え、リスク/ベネフィットを共有した上で、GoかNo goかを研究者に判断してもらいたいと私は思っています。

また、「明日、申請書類の締切りだからチェックして下さい」というような頼まれ方をすることもあります。研究者の方たちは研究や診察で忙しいため、書類の作成は後回しになってしまいがちですが、ある程度、検討する時間をいただけるとありがたいです。そのためには、なるべく日ごろから研究者とコミュニケーションをとって、先のことを予測し、「そろそろ相談しませんか」と声をかけたりできるように、私たちも心がけていきたいですね。

最後に本プログラムにおける抱負をお聞かせ下さい。

武藤:事故なく、また患者さんたちに迷惑をかけることなく、このプログラムが遂行されるように支援するのが、私たちの使命です。特に本プログラムでは、大規模なゲノム解析をするので、ゲノム情報の取り扱いやプライバシーの保護が大事なポイントになります。患者さんからの試料は厳重に匿名化して、セキュリティの強化を図っています。

病気と闘っておられる患者さんに試料提供をお願いすると、多くの患者さんが研究に賛同し、同意してくださいます。そうした患者さんの医学への信頼を裏切らないために、研究者の方々にも、研究倫理に関する啓発を積極的に行っていきたいと思います。

(2012年7月掲載)

武藤香織(むとう・かおり)

東京大学医科学研究所 教授
慶應義塾大学文学部卒業、同大学大学院社会学研究科修士課程修了、東京大学大学院医学系研究科単位取得満期退学。博士(保健学)。(財)医療科学研究所研究員、米国ブラウン大学研究員、信州大学医学部保健学科講師、東京大学医科学研究所准教授を経て、2013年より現職。ライフサイエンスや医学の研究が、社会の理解を得ながら適正に行われるために必要な課題を抽出し、その対応を考え、戦略を練る研究を行っている。