本プログラムは平成28年3月31日をもって終了いたしました

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インタビュー INTERVIEW / 出口を見据えた知財戦略で創薬研究を加速する / 次世代がん医療創生研究HQ 知的財産支援 内海 潤 がん研究会 P-DIRECT知財戦略プロデューサー

本プログラムにおいて、知的財産の支援が行われるのはなぜでしょうか?

内海:本プログラムに参加している研究者の皆さんは、日本のがん研究のトップレベルにいる方たちであり、研究内容は深く、先駆的なものが非常に多いと感じます。本プログラムは、がんの治療薬と治療法につながる実践的な研究成果を医薬品・医療機器企業に受け渡すレベルにまで育成することを目的としていますから、研究成果を事業化につなげる技術移転手段として特許が必須になります。すなわち、優れた研究成果を「よい特許」につくり上げることが成果確保の鍵になります。「よい特許」とは、出口の製品を想定した広く強い権利を実際に使える形で確保する特許ということですが、発明が優れていることに加えて、権利化できるようにつくりこむスキルも必要になりますので、広く強い権利の「よい特許」を取得することは企業でも決して容易ではありません。

本プログラムの研究成果は、研究者の所属機関から特許出願することになっていますが、特許作成に際して、研究者自身は「よい特許」の具体的な形がわからず、かと言って、所属機関の知財部門から戦略的なきめ細かい助言を受けるのは難しいのが現状です。それゆえ、本プログラムとしては、できるだけ「よい特許」をつくり、それを活用するために、強力な知財に関する支援を行う必要があるのです。

具体的にはどのような支援をしているのですか?

内海:製薬企業が強い興味を示す特許は決まっており、"First-in-Class" の医薬品(これまでとは作用機序の違う薬)か、"Best-in-Class" の医薬品(同種の薬の中で一番効き目の強い薬)につながるものです。そこで、まず出口戦略として、この視点に立つことの重要性を研究者に理解してもらいます。これが、研究を優れた発明につなげるコツでありながら、研究者がふだんの研究を進める際には見落としがちな視点だからです。

次に、個々の研究内容に即して、特許のための具体的なデータの取り方を助言します。データは、よい特許のつくりこみの材料になります。特に、特許には進歩性が求められますから、既存技術と比較するデータで既存技術より優れていることを示す必要があります。このような比較データは、論文を出すときには必ずしも必要ではないため、研究者の立場では意識しにくいものです。

また、研究者は、論文に直接関係する特許を出願すればよいと考えがちですが、コアとなる1つの特許をとっただけでは権利が弱く、周辺技術は真似され、実際上は「使えない特許」になってしまう恐れがあります。そこで、コアの特許のほかに2~3つの周辺特許で広く権利を押さえる「ポートフォリオ」という考え方を導入します。これは、どの製薬企業でもとっている特許戦略ですが、大学ではほとんど対応できていません。これを導入することで、製薬企業へのライセンスをしやすくなると考えています。さらにライセンスにあたっては、特許だけでなくPOC(proof of concept)のデータが重要ですので、POCのデータを早めにとることもアドバイスします。

以上は、研究者自身に動いてもらうための支援ですが、一方で我々自身が動く支援作業としては、研究者への助言の基礎となる情報を収集し、提供します。特に、特許を出願する際には先行技術の調査が必須ですが、研究者は学術論文調査はしっかり行うものの、特許に関してはほとんど調査しないケースがよくありますし、一般に大学知財部門の調査も十分ではありません。本プログラムでは専用の検索ソフトも導入し、我々が企業の知財部のように先行技術調査を行って、研究者に情報提供することにしています。

製薬企業に成果を受け渡す際にはどのような支援をするのですか?

内海:本プログラムの特許は研究者の所属する大学などが権利者ですので、製薬企業への技術移転も所属機関が主導することになりますが、大学知財部門と連携して必要な支援は惜しまず行います。具体的には、ライセンス先の紹介、ライセンス交渉条件の枠組みつくりや交渉条件の助言、契約書作成の支援などです。この辺は、いわゆるTLOと同じ役割ですが、がんの分野に特化して、製薬業界に特有な技術評価とライセンス・ネットワークをつくって差別化された支援をしていきたいと思っています。この技術移転と導出の作業は、日本製薬工業協会(製薬協)知財部から発足した知的財産戦略ネットワーク株式会社(IPSN)と連携して、より上質の支援を提供しています。

一方で、研究者がプレスリリースや学会発表の段階で企業から直接コンタクトされる場合もありますので、その対応に関するコンサルテーションも受けています。

知的財産支援にあたっての抱負をお聞かせ下さい。

内海:本支援基盤では、私のほかに弁理士と特許事務所経験者の生物系PhDがメンバーとなり、強力な陣容を築くことができました。本プログラムには80件を超える研究課題がありますが、できればすべての課題から使える特許を出してもらえるよう、この体制で支援していきたいと思っています。

研究シーズの魅力が大きいので、非常にやり甲斐を感じています。その1つに個別化医療に対応したアプローチがあります。これまで製薬企業が目指してきたのは、多くの患者さんに効く薬、いわゆる「ブロックバスター」でした。しかし、従来のがん治療薬の場合、多くの患者さんに投与しても2~3割にしか効かず、残りの患者さんには副作用が出るなど、負担のほうが大きくなっています。がんには多様な「個性」があるために、一様には効かないということです。最近のがん治療はその個性を調べる流れになってきており、「コンパニオン診断薬」でがん遺伝子の違いを調べて、効く薬を選んで使うという方向に向かっています。最近承認された分子標的薬では、この方法で有効率6割以上という薬剤も出てきているそうです。本プログラムでは個人個人の遺伝子の違いに基づくがん分子標的薬を狙っているテーマも多く、この流れに合うものです。

また、標的候補のシーズ研究と臨床検体からの標的探索が同時に動くというのも珍しく、本プログラムの特徴ですね。臨床検体の遺伝子を直接調べる研究は企業単独では行えないことからも、臨床検体解析の成果は製薬企業から必ず注目してもらえると期待しています。

本プログラムの支援体制は、知財戦略だけでなく、化合物スクリーニングやPOC、研究倫理など、一般にアカデミア研究の弱い機能を強力にカバーするようになっており、よく考えて設計された仕組みだと感じています。その仕組みの一翼を担う者として、これまでの経験を生かし、日本オリジンの新たながん治療薬の創出に貢献したいと思います。

(2013年3月掲載)

内海 潤(うつみ・じゅん)

公益財団法人がん研究会 がん研究所 P-DIRECT知財戦略支援ユニット長
北海道大学大学院獣医学研究科修了。理学博士、技術士(生物工学)、MBA。東レ(株)にて基礎研究所主任研究員、医薬臨床開発部主幹等を経て、北海道大学産学連携本部教授/知的財産部長、京都大学大学院薬学研究科特定教授を歴任、2012年より現職。企業時代に世界初のκ作動性止痒薬を医薬品化した業績で、日本薬学会創薬科学賞、大河内記念技術賞を受賞。P-DIRECTでは出口戦略とポートフォリオを意識した実践的知財支援を行う。