本プログラムは平成28年3月31日をもって終了いたしました

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基礎知識

基礎知識3 がんの薬(分子標的薬を中心に)

がんの治療は、外科手術、化学療法(薬による治療)、放射線治療を組み合わせて行われます。化学療法に用いられる薬には、がん細胞をたたく「抗がん剤」、体の免疫力を高める「免疫賦活剤」、ホルモンに反応するがんを対象とする「ホルモン剤」などがあります。ここでは、「抗がん剤」についてご説明します。

抗がん剤は大きく「細胞障害性抗がん剤」と「分子標的薬」に分けられます(下の表)。細胞障害性抗がん剤とは、細胞の分裂機構に作用し、細胞増殖を抑える薬です。DNAに作用して複製を阻害するアルキル化剤やプラチナ化剤をはじめ、いくつかの種類があります。がん細胞の多くは、正常な細胞よりも活発に増殖するため、こうした薬ががん細胞に対して効果を示すのです。

最初の細胞障害性抗がん剤は、毒ガスの「ナイトロジェンマスタード」に由来すると言われています。第二次世界大戦中にこの毒ガスを浴びた兵士に白血球減少が見られたため、白血球と同様に増殖の速いがん細胞に作用するのではないかと考えられました。そして、ナイトロジェンマスタードの構造を改良した抗がん剤がいくつも誕生しました。1958年につくられたシクロホスファミドはその1つで、現在も使われています。

細胞障害性抗がん剤には、多くの種類があります。しかし、正常な細胞であっても増殖がさかんであれば作用してしまうので、副作用が出やすいという欠点がどれにもあります。そこで、注目されるようになったのが、分子標的薬です。

1980~90年代に、細胞の中の分子の働きを調べる分子生物学の手法が進歩し、がん細胞の中でどんな分子が働いているのかを調べられるようになりました。これにより、がん細胞の増殖や転移の際に働く、がん細胞特有の分子(おもにタンパク質)が見つかってきたのです(基礎知識1「遺伝子変異とがん」参照)。がん細胞に特有の分子を標的として、その分子だけをたたく薬をつくれば、治療効果が高く、副作用が起こりにくいことが期待されます。

この期待に応えて、2000年前後から、がんの分子標的薬が次々に登場しました。特定の分子(タンパク質)の働きを抑えるには、そのタンパク質に対する抗体が有効です。これを「抗体医薬」と呼びます。例えば、乳がんの治療に使われているトラスツズマブは、がん細胞の表面にあるHER2というタンパク質に対する抗体で、細胞増殖を促すシグナルをブロックする働きをします。抗体医薬は、標的タンパク質を抗原として動物に免疫し、目的の抗体をつくるB細胞(リンパ球の一種)を取り出し、特殊な方法で培養してつくります。

一方、低分子化合物で標的分子の働きを抑える場合もあります。例えば、慢性骨髄性白血病では、Bcr-Ablという特有のタンパク質がつくられ、このタンパク質が白血球を異常に増殖させるシグナルとなることがわかりました。そこで、Bcr-Ablの働きを抑える化合物である「イマニチブ」が開発され、症状の軽減に役立っています。

本プログラムでは、より有効な標的分子を探し、その分子の働きを抑える薬(おもに低分子化合物ですが、抗体医薬も)の開発を目指しています。

また、今後、開発が期待される抗がん剤として、核酸医薬品があります。これは、短いDNAやRNAを薬として使うもので、特定の遺伝子やmRNAに結合したり、転写や翻訳に関わる酵素に「おとり」となって結合したりすることにより、遺伝子からタンパク質がつくられるのを阻害します。エピゲノム(基礎知識6「エピゲノム」参照)のしくみの1つである、マイクロRNAの機能を阻害したり補ったりするものもあります。本プログラムでも、こうした核酸医薬品につながる研究を行っています。

抗がん剤の分類
分類 作用の仕方 製剤の例(一般名)
細胞障害性
抗がん剤
アルキル化剤 細胞中のDNAに直接作用して複製しにくくし、
これにより細胞の増殖を抑える
シクロホスファミド
プラチナ化剤 同上 シスプラチン
代謝拮抗剤 この種類の薬は、細胞の増殖に必要な物質(例えばDNAの材料となる核酸)と似た構造をもつため、
これを取り込んだ細胞は本来の代謝を行えなくなり、死に至る
フルオロウラシル
抗がん性
抗生物質
微生物由来の抗生物質のうち、がん細胞中のDNAや細胞膜を破壊するもの ドキソルビシン
微小管作用薬 細胞分裂の際に働く微小管をつくれなくし、細胞増殖を抑える パクリタキセル
トポイソメラーゼ
阻害剤
この種類の薬は、DNAのねじれやひずみを解消するトポイソメラーゼという酵素を阻害する。
この酵素はDNAの複製に重要であるため、阻害することにより細胞の増殖が抑えられる。
イリノテカン
分子標的薬 がん細胞に特有の分子を標的とし、その働きを抑える トラスツズマブ、
イマチニブ
核酸医薬品 短いDNAやRNA 抗がん剤として承認されているものはまだない